彼の頭はつっかえた

なんか雑記ばかり書いてますが、一応掌編載せる予定です。

練習1『自動車学校の様子』

日光の下の朝は澄んでいた。私はいつも自転車の物置小屋のベンチに座っていた。今日も裏の廃屋から発情期の猫がひっきりなしに交尾を求めていた。部活動の練習に励む掛け声が、神社のちょっとした杉林の向こうから聞こえてきた。眼前の教習所はまだ営業時間前であったが、練習コースを眺めているだけで不慣れで穏やかなエンジン音が流れてくるようだった。

  ふいに一羽のカラスが鳴いたかと思えば、反対側からけたたましい小鳥の声が響いた。山々の葉は擦れ合い、微細な緑色の隙間の暗がりがぽつぽつ揺らいでいた。教習所は山の麓にあって、入り口を見下ろすと海と街とが展望できた。排水溝にしがみつく蛙や、湖面に突き出した幹で日光浴する緑亀、散歩する私に驚いて逃げていく畔のもぐらなど、大抵私たちは眠気が覚めるか次の講習まで、これらの風景をぼんやり見ていたのである。